大阪府北部で震度6弱を観測した地震は、災害時に地域住民のよりどころとなる医療機関の備えにも課題を突きつけた。停電が起きた国立循環器病研究センター(大阪府吹田市)は自家発電機が使えず、検査漏れも判明。交通網のまひなどで医師が出勤できず、診察が遅れたケースもあった。命に関わる事態は避けられたが、専門家は「対応策の再点検が必要だ」と指摘している。
国立循環器病研究センターは地震が発生した18日、約3時間にわたり停電し、職員らが電源の確保に追われた。非常時に館内の電気を賄う自家発電機は作動したが、センターに送電する装置に不具合があり、電気を送ることができなかった。
センターは重い心臓病などの治療を担い、常に電気の供給が必要な人工呼吸器や人工心臓を使う入院患者が約70人いる。職員らはこうした機器に絞り、本来は自家発電へ切り替わるまでの約10秒間をカバーする非常用バッテリーをそのまま使用。予備として、工事業者から簡易式の自家発電機20台を取り寄せた。一部の患者や乳児は別の病院に転院させた。
結果的にはバッテリーを使い切る前に停電が解消し、患者の容体に影響はなかった。担当職員は「バッテリーがどれくらい持ちこたえるのか分からず焦ったが、被害がなくほっとした」と胸をなで下ろす。
しかし、センターは自家発電機について電気事業法が定める年1回の保安検査を少なくとも5年怠っていた。厚生労働省は「重大な事態に陥る恐れがあった」として、非常用電源の点検状況を確認するよう都道府県を通じて全国の病院に指示。センターも詳しい経緯を調査している。
想定外のトラブルは発電機以外でも起こった。大阪府済生会吹田病院(吹田市)は交通機関の運転見合わせで、心臓血管外科と精神神経科の医師2人が出勤できず、いずれの科も休診に。市立東大阪医療センター(東大阪市)はエレベーターが緊急停止し、診察を待つ高齢者や車いすの患者ら100人以上が1階で立ち往生した。担当者は「復旧までに予想以上に時間がかかった。今回の教訓を生かし、様々な事態を想定して災害時の対応マニュアルを見直している」と話す。
厚生労働省によると、全国の約8400病院のうち、施設内の全ての建物が震度6強の地震に耐えられる基準を満たしている割合(耐震化率)は2017年9月時点で72.9%だった。巨大地震への備えの意識が広がり、5年前に比べ11.5ポイント上がったが、近畿地方は京都府が60.4%と47都道府県最下位。大阪府(64.5%)も3番目に低いなど対応の遅れが目立つ。
摂南大の池内淳子教授(病院防災)は「今回のような規模の地震は大半の医療機関が想定していたはずで、より強い揺れに襲われた場合の混乱はさらに深刻化する」と指摘。「非常時のマニュアルを再構築するとともに、想定外の事態に対応できるよう訓練を重ねることが重要だ」としている。
日本経済新聞
「病院、地震後あわや一大事 自家発電に不備・診療休止も」より引用